第14章 余章 ―― 夜話
「お待たせ、……あら」
服屋から出て来た澤子は後ろ姿の瑞稀と話している女性に気付いた。
誰だろう?
なんだか親しげな……
ぱち、と澤子と美和の目が合う。
「ふーん?」
美和は瑞稀の腕に手を回す。
「おい?」
「でも、相性は瑞稀くんとが一番良かったな」
「あ、姉さん……」
「え」
「じゃあね! 瑞稀くん、 会えて嬉しかった」
美和はぶんぶんと手を振って駆けていく。
……絶対仕返しだなあれ、瑞稀は小さく呟いた。
逸巳は無言で二人から距離を取っている。
「瑞稀さん、だあれ? あの人」
澤子は微笑んで聞く、が、目が笑ってない。
「……知り合い?」
「だから何で疑問形?」
「知り合いって…」
「うーん……」
瑞稀は返答に困ったように頭を掻いた。
「昔寝ただけだ」
「瑞稀さん」
そんな馬鹿正直に。
逸巳は慌ててフォローに入る。
「あ、でも、付き合う前でしょ?」
「うん」
「……ごめん、今日は私帰る」
「姉さん」
「澤子」
澤子は早足でその場を離れた。
「……追わなくていいの?」
「これどうしようもないんじゃね」
「そんな、他人事みたいに」
「だって俺も言い訳とかしたくないし」
はあ、と息をつく瑞稀を見ながら逸巳も曖昧に頷いた。
だけど相手は姉さんだからなあ……
それに瑞稀は気付いてないかも知れないけど、普段は女嫌いって言っても良いような瑞稀が、あんなに他人と近い距離を取って平気なのは珍しい。
おそらくそれに澤子も気付いたのだろう。