第12章 春へ
高雄は逸巳に向き直って言った。
「逸巳君、うちを継がないか?」
「は?」
「え?」
「ん?」
高雄の突然のヘッドハンティング、……実質養子入りに逸巳、澤子、瑞稀の三人はぽかんとした。
「まだ大学を卒業したばかりだそうだね。 数年は関連の企業で勉強してもらう。 その後私の下に付きなさい。 その間いくつか経営しながらやっていくといい」
「……瑞稀さんの決断力は父親譲りなんですね」
「そこ?」
「で、でも逸巳はもう就職をしていて」
「辞めれば問題無い」
「はあ……でも何でまた、僕なんですか?」
「勘だ」
逸巳は瑞稀と澤子を見た。
二人共、なんとも言えない複雑な表情をしている。
逸巳は『小田家』の事を知らない。
この優しい男が果たしてここでやっていけるのか。
「よく分かりませんが、僕でいいならよろしくお願いします」
「逸巳?」
「おい」
「ハッハハハ、よろしい」
高雄は愉快そうに笑い、瑞稀と澤子は逸巳の即決の承諾に驚いた。
「まあ……」
「まじかよ」