第12章 春へ
明るい中庭にはバラの花が咲き乱れ、瑞稀の父親、高雄が料理の並んだテーブルを挟んでゆったりと座っている。
「これはこれは。 想像よりずっと美しい。 ボッティチェリの名画のようだ。 澤子さんだね、初めまして」
「そ、そんな……こちらこそ、初めまして」
高雄は立ち上がって背を伸ばし、にっこりと澤子に微笑みかける。
手にキスでもしそうな勢いだ。
『想像すんな、エロ親父』
『何この凄いイケメンマッチョ紳士』
「こちらは?」
「澤子の弟の逸巳といいます。 姉がお世話になってます」
逸巳はぺこりとお辞儀をした。
「ほう、君が。 こちらこそよろしく」
高雄は少しの間逸巳を見詰めた。
「あの……?」
「いや、何でもない。 さあ、席へ着いてくれ」
銘々料理を食べたりワインや飲み物を手にしながら高雄は話を進める。
「式は大学を卒業してからと聞いているが?」
「ああ、その予定だ」
「仕事は?」
「考えてないな」
「まあ、お前なら私の所でも他でもどうにでもなるだろう。 こちらの力が必要なら言いなさい」
「俺たちに依存は無いのか?」
「無い。 お前の事情を知った上でこうなる事は奇跡に等しい、そして人生には伴侶は必須だ」
「家の事は?」
「それなんだがね」