第12章 春へ
訪問の帰り、三人は並んで歩いていた。
逸巳が伸びをする。
「さすが凄い家だったね。 料理も最高ー」
「最高ーじゃねえよ。 いいのか、あれ」
「……あー、うん」
「……入って二ヶ月で転職か。 忙しい忙しい」
「おい、言っとくが親父は鬼の皮を被った化け物だぞ?」
「逸巳、せめてもっと、話を聞いてから」
「まあ、こっちも勘てやつ?」
逸巳は高雄本人の一見して圧倒的な力に興味があった。
瑞稀の父親だけある。
スケールがおかしいけど、会社経営も面白そうだ。
あとは、この二人に関わっていたいってのもあるけど。
「姉さん、瑞稀さん。改めて婚約、おめでとう」
「逸巳…………」
「ああ、これからも色々、よろしく」
涙ぐんでいる澤子の肩を抱く瑞稀。
そういえば、瑞稀は最初女の子と付き合った事無いって言ってたっけ。
姉さんも似たようなもんだったし。
でも初めから、お互いに異性はお互いしか居ないって感じだった。
こうなったのは必然のような気がする。
「……僕も彼女欲しいな」
「無理じゃね? 澤子よりいい女とか居ないし」
「瑞稀さんてば……」
「まあねえ」
最近の澤子はとりわけ綺麗だ。
瑞稀の隣で、まるで、花のように笑う。
ずっとこうであればいい。
そんな奇跡みたいな二人を見れればいい。