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Mirror【R18】

第3章 健全な精神は健全な肉体に宿りかし


「お疲れ様。 助かった」

「いえ。 こちらも勉強になります」

瑞稀の師範の一人の加藤というその人物は、人懐っこい笑みを浮かべて瑞稀に茶の入ったグラスを渡した。
瑞稀より二十歳上の彼はこの道場の持ち主であり、瑞稀が十歳の頃から空手を教わっている。

「相変わらず無茶に鍛えてないか? たまには筋肉を休ませないと駄目だ」

「それ程ではないです。 ただ鈍るのが嫌なだけで」

「それでもまあ、全盛期の頃の親父さんと較べればまだまだだろうが」

加藤は元オリンピック代表の実力者であるにも関わらずプライベートな打ち合いでは父親の高雄が勝っていたという。

「今もどうだか……」

見た目と同じく高雄の体力は衰えているようには見えない。
瑞稀は父親と闘った事は無いが正直とても勝てる気がしなかった。

「家の事で悩んでるんじゃないのか?」

「え?」

「そろそろ将来の事を決める時期だろう。 手合わせの時に少し気が逸れてる事がある」

「……すみません」

「こっちの方面に来るのも充分いけるとは思うが、親父さんも多分お前も、それは望んで無いんだろう」

「正直、まだ決めかねてますが」

「とにかくまだ若いんだからもっと遊ぶといい」

──家を継ぐ気は無い。
俺は親父みたいにはなれない。
長い付き合いもあり加藤さんは俺の叔父貴みたいな存在だが、本当の悩みは話せない。

「じゃ、また来週」

瑞稀は礼儀正しく頭を下げた。

「はい」



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