第11章 感情は航海の帆を張る
何度も、こんな顔の瑞稀を見た。
それなのに最初は数える程しか見たことが無かった彼の笑う顔。
瑞稀は今までそういう風に生きてきたのだ。
直後、直接傷口から入った瑞稀の睡液で澤子は眩暈を覚え、身体が急速に火照る。
ふらつく足元の澤子を瑞稀が支えた。
「……これは鎮痛剤代わりにもなる」
「わ、私を食べていい。 ……私はこの、身体のせいで差別を受けて、去ってく男の人……もいた」
澤子は荒い息を吐きながら途切れ途切れに瑞稀に訴える。
「瑞稀、さんが、生きる……意味が無いって、いうなら……私にも無い」
「……俺の一族は他人を傷付ける」
以前と同じ様に、瑞稀が触れている部分の澤子の肌が熱を持ち、声を上げそうになる自分の唇を噛む。
同じ様な欲望を瑞稀はいつも耐えていた。
「瑞稀さんはそうじゃ……ない。 お願い、私の想いまで否定……しな、いで」
澤子の目から涙が流れる。
瑞稀を一人にしたくない。
「俺は喰わない代わりに、長くは生きられない。 あんたを守れない」
「その時は……私も一緒に逝くから」
「澤子がそんな事をする必要はない」
孤独なままなら生きる意味は何処にあるのだろう?
こう思う事は傲慢だろうか。
だけど、澤子は思う。
自分は大切な人を探す為に生きてきたのではないだろうか。
澤子は首を左右に振った。
「あなたに…会って、しまったから」
何を選ぼうと構わない。
血で濡れた瑞稀の赤い唇に触れそこに口付ける。
知らない時に戻れないなら私は居なくなりたいと、どうかあなたに分かって欲しい。
その後急速に視界が薄暗くなり澤子、と自分を呼ぶ声を最後に意識が途切れた。