第11章 感情は航海の帆を張る
そんな様子の澤子を見詰めながら瑞稀が口を開く。
「聞いたよ。 澤子が昔された事」
「……逸巳から?」
「あんな事、似たような事を親父がやってる。 俺の身体も普通じゃない。 俺も血を見ると食欲を覚える。 こんな俺に関わるな。 もう話す事は無い」
よく見ると瑞稀は顔色が悪く、憔悴していた。
「でも私は、瑞稀さんが好きよ」
「そんな事は問題じゃない」
「じゃあ何故私にそう言ったの?」
「……俺は人を傷付けたくない」
「傷付いてるのは瑞稀さんでしょう」
「……私が瑞稀さんを傷付けてるの?」
「気のせいだ」
「え?」
「あんたはこないだの店で、俺の身体のせいで勘違いしてるだけだ。 俺に対する気持ちもそのうち消えて無くなる。 俺は生きてる意味も無い。 もう忘れた方がいい」
「瑞稀さん」
「……俺に関わるのはやめてくれ」
瑞稀の出した答え。
誰とも付き合った事が無いと言ってた。
こんな広い家で、一人で。
これからもそうしていくつもりなんだろう。
それを止める権利は私には無い。