第11章 感情は航海の帆を張る
「……ここに、瑞稀さんが居るって聞いて」
……奴も何を考えてるんだ。
「?瑞稀さん……」
「ここは親父の食事場だ」
食事……?
澤子は改めて周りを見渡した。
赤黒い………おびただしい、あれは、血?
「う………」
澤子は口許を抑えた。
そういえば、何か匂いがする。
肉屋のような、チーズのような。
よく見ると大きなソファには引っ掻いたような跡がいくつも。
「親父は月に一度ここで女を抱いて『食事』をする。 ただやるだけの時もあるらしいが」
「……瑞稀さん、も?」
「いや、……だが、うちでは昔からそういうのが当たり前だった。 あの親の血が流れている俺も大して変わりはない。
とにかく、出よう。 ここは普通の人間がいる所じゃない」
瑞稀が手を伸ばすと、澤子は後ずさってそれを避けた。
そんな澤子の様子に瑞稀が苦笑する。
「怖い?」
「……怖くない。 私は話をしに来たの」
部屋の異様さと匂いに吐き気がしたが、澤子はぐっとそれを堪える。