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Mirror【R18】

第10章 前後を切断せよ


「私たちの事をただの人間のひとりやふたりに知られても特に問題は無いが、お前はもう選択するべきだ」

「悪いのは向こうの男だし、何故そのうえ、澤子が俺達の犠牲になる必要がある」

そんな事をしたら澤子を襲った鬼畜と変わらない。


「お前の身体の為だ。 そんな半端な状態で、お前は簡単にはいそうですかと次には行けまい」

「次に行くのが必要なら無理にでもそうする。 だが、そもそも澤子は弱くない。 覚束無い足で、ひとりで立とうとしていた。 過去にそんな目に遭っても曇らない目で人を見て、話を聞く。 弱音を吐かずに他人に優しさを向ける。 彼女には手を出すな」

瑞稀はこの件に関しては引く気は無かった。
例え家を出る事になっても。


高雄はそんな瑞稀の様子を見詰めながら、少しの沈黙の後口を開いた。

「瑞稀、お前に話していない事がある。 私が最初に喰ったのは、お前の母親だ」

「最初に……?」

「彼女は酷く難産で、医師からは腹の中にいたお前か妻を選ぶ選択を強いられた。 私は彼女を家に連れて帰り、妻の腹を裂きお前を取り上げた。
そう望んだのは妻の方だ。 彼女はお前を選び、私の血肉になり私の中で生きたいと、そうやってお前の傍にいることを選んだ」

「母さんが……」


瑞稀は目眩がした。

親父の中にいる母親。
俺を選んで喰われた母親。

空いた血塗れの腹から生まれた自分。

想像するだにおぞましい光景しか思い浮かばない。


「私はお前の産声を聞きながら、涙を流し吐きながら妻を喰った。 それこそ肉の一片も残さずに。
最愛の者がお前にそう懇願したら、お前はどうする? 自分の考えが偽善でないと言えるのか?」


静かに話し続ける高雄に何も言えない。

吐きそうだ。
瑞稀はソファに手をついた。



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