第9章 対話、それぞれの都合
「……瑞稀さんだから言いますけど、姉さん、中学の頃男に乱暴されたんです」
「……え?」
「それであんな身体になって、一時男性恐怖症になりました。 あの時は俺が姉さんを最初に見付けて…酷い状態で。 そして両親も死んで、もう俺しかいないから、俺が姉さんを守ろうって」
「──可哀想に」
長い沈黙の後に、瑞稀はポツリと言った。
間もなく二人は駅に着いた。
「逸巳」
「はい?」
「もしも、俺が澤子を傷付けたら俺を殺してくれるか」
「……瑞稀さん?」
唐突に出た物騒な言葉に逸巳は瑞稀の真意を図りかねて彼の顔を見詰めた。
瑞稀は自嘲気味に微笑んでいる。
「瑞稀さん、そんなに姉さんの事を?」
「……いや」
瑞稀はその問いには答えず逸巳の胸を拳で軽く叩いた。
「余計な事は考えないで、これからも姉さんを守ってやれ」
「瑞稀さん?」
「ちゃんと鍛えろよ」
そう言い残して軽く手を振った。