第9章 対話、それぞれの都合
「さすがにこう暗くなると冷えるな」
駅までの道、逸巳と瑞稀は連れ立って歩いていた。
「……瑞稀さん、姉さんと付き合うんですか?」
「へ? 話し声、聞こえてた?」
「いえ、実はあんまり。 でもそうかなって」
「……いや、ないよ」
「え? でも瑞稀さん、姉さんの事好きなんでしょ?」
「……お前みたいに鈍感な奴にもバレてたんだな」
瑞稀は苦笑した。
まあ、そりゃあ。
澤子に対する瑞稀の態度は5歳も年下の割に尊大なようでいて、いつも澤子を気にかけているように見えた。
「……ん。 だけど俺にはそんな資格無いと思うし」
資格?
逸巳は訝しげに瑞稀を見た。
「……姉さんの事、僕は瑞稀さんならって思ってたんですけど」
「はは。 シスコンだなお前」
「シスコン……なんですかね」
「そうじゃないの? 俺は兄弟居ないから分かんないけど」
「気持ち悪いですか、こういうの」
「いや別に」
瑞稀の表情には逸巳を馬鹿にした様子も軽蔑した様子も浮かんでいなかった。