第9章 対話、それぞれの都合
逸巳は姉に対して特別な感情を持っていた。
今まで澤子がどんな男と付き合おうと、逸巳はさして気にしなかった。
澤子の性格上、どうせ上手くいかなくなるのが分かっていた。
澤子は弟である僕にしか心を開かない。
男と別れる度、澤子の傍にいる事が出来る男はやはり僕しか居ないのだと安心する。
こうやってこのままずっと二人でいればいい。
僕はじきに大学を卒業して稼ぐようになる。
そしてこの家で姉を守って暮らしていく。
だが、二人の前に瑞稀が現れた。
瑞稀には勝てない。
逸巳も瑞稀の事は格闘技の先輩として尊敬していたし、瑞稀の自分には無い、ブレない強さは同性としても憧れた。
姉さんもそうなんだろう。
僕達は似ているから。
澤子が居なくなってしまう。
守っていたようで守られていたのは自分だったのか。