第14章 ホークスが好きな彼女
『…待っててくれたの?』
「……友達が事件に巻き込まれるよりマシだろ」
は自分の携帯で現時刻を確認し、申し訳なさそうに、轟に謝った。
「もう少しして帰ってこなかったら、電話しようと思ったんだが」
お前の連絡先知らなかった、と。
轟は気の抜けるような事を真顔で告げ、の方へ携帯を差し出してきた。
「連絡先、いいか」
『えっ、はい』
真夜中に行われる連絡先交換。
轟は、現時刻が丑三つ時であることを携帯の画面の隅で確認し、ぼそっと「案外時間経ってねぇな」と呟いた。
「何の話だったんだ」
『インターンの許可をもらったの。土日、ホークスの事務所へ行く時間がないって話をしてたら、仕事のついでに来てくれて』
「…こんな時間に、インターンのガイダンスしてたのか?」
『ホークスとは昔馴染みだから、つい話し込んじゃった。待っててくれたのに気が回らなくてごめんね』
「…やたら声が明るいな。ホークスのファンなのか」
『うん、私ホークスが大好きなの!』
は、轟に向かって。
今までクラスの誰にも見せたことのないような、幸せそうな笑みを浮かべた。
「……そうか」
『うん。今日はありがとう。あ、カーディガンもありがとう、すごく助かりました』
あまりの表情の変化に、轟が呆気に取られ、言葉を一瞬詰まらせる。
は、『あっ、ハンコ返し忘れた』とカーディガンのポケットから出てきた四角い公印を手に持って、カーディガンを脱ぎ、轟にそれを返却した。
『おやすみなさい、轟くん』
彼女が女子棟の方へと向かっていく。
轟はわずかに頷き、自身も男子棟の方へ歩き出し、エレベーターのボタンを押した。
エレベーターを待つ間。
ふと、考えた。
(……あいつ、あんな顔で笑えるんだな)
それほど、ホークスが好きなのだろう。
そう思い至った時。
轟は、自身の胸が軋んだような痛みを感じた。
(……何だこれ)
寝不足のせいか、と納得し。
轟はその痛みの理由を深く考えることなく。
自室に戻り、眠りにつく数秒前。
のことを思い浮かべて、眠りについた。