第12章 それぞれの個性
懐に飛び込んできた彼女は、一瞬。
通形と視線を交わした。
そして、次の瞬間。
彼女は残像を残すほどの高速移動を繰り返し、通形の右腕、左肩、腹、右脚、うなじにいたる複数箇所に向かって、軽い打撃を繰り出した。
(なるほど、どっかしら攻撃当たるんじゃないのかって探ってるのかな!?)
連撃ラスト。
瞬間的に空高く飛んだ彼女は両脚を揃えて引き、両肘を自分の頭の上に持ってきた後、ドッと、自分の両腕近くで小さな爆発を起こした。
彼女の身体が、ものすごい速度で槍のように降ってくる。
通形の脳天からつま先にかけてを狙った重い攻撃も、残念ながら、彼の身体をすり抜けてしまう。
(…個性が扱えねぇっていうわりに)
そんなの戦闘スタイルを初めて目にした轟は、つい先日、彼女が吐露した言葉の一端を思い浮かべ、違和感を覚えた。
彼女の近接戦闘スタイルは、一見すれば、完璧に出来上がっているように見えなくもない。
しかし、確かに。
彼女が「扱えていない」と表現したように、何か「個性」の扱い方が違っているような。
(……なんだ、何が引っかかる?)
轟が真顔で遠巻きに眺めているその渦中、通形はせっかく履いたはずのズボンを履き直すため、またお着替えタイム不可避となっている。
「二人とも顔面かよ。そして女子!度々すみませんね!コスチューム着た方が良かったかもね!!ハッハッハ恥ずかしーぃ!!」
そうのんびりと笑う通形を、青山のネビルレーザー、芦戸の強酸、瀬呂のテープ、耳郎の地割れが襲う。
近くにいた緑谷、が跳び退き、距離を取った、その瞬間。
「いないぞ!」
「まずは遠距離持ちだよね!!」
集団の後方にいた耳郎の背後、轟の目の前。
まるでビックリ箱から飛び出してきたかのように、突如として、地面から通形が現れた。
振り返った耳郎は、襲い来る全裸の男の姿を見て、「ギャアアアア」と色んな感情が入り混じった叫び声をあげた。
(……遠距離)
轟は通形の声を頭の中で反芻し、自身の両手を見た。
「…そうか、あいつの個性は」
彼がそう呟く間の出来事だった。
Power!!!という独特な掛け声を合図に。
通形が、下級生たちの約半数を一蹴し、捕縛し、ノックアウトさせてしまった。