第8章 落日
―――約3週間前。
「ボール当て…?ずいぶん遊び感覚というか…大丈夫か?」
日本の№1ヒーローであるオールマイトの突然の引退に伴い、急遽、ヒーロー公安委員会は、すぐ来たる夏の仮免取得試験に向けての企画会議を行った。
「本質はそこではなく…混乱状況をつくることにあります。非常時に能力や思考を素早く正しく働かせられるか」
二次も同様の企画趣旨。
個々人の能力に焦点を当てるというよりは、団体行動前提のチーム能力検査と言わざるをえない部下の企画内容に、会議の参加者たちは、頭を悩ませた。
「警察庁からの提唱なんですよ。事実上命令です。救助における基礎知識は有るものと前提した上で、その先の協力・協調姿勢に注力した内容を……って」
「協調ね…」
「オールマイト程のカリスマ性を持った人間はそうそう現れないということだ」
「候補者の育成はどうなった?」
「彼女はもうだめだろう」
「議事録をとってる。話の内容は、書面に残っても差し支えないものに限らせていただきたい。君、今の発言はすべて削除だ」
「私は仮免取得に「協調性」なんてものが必要だとは思わない。上は何を考えてる?」
「何を考えていようが、どうせ今回の提唱には逆らえないのだろう。我々が一番期待していた彼女の「期待値」についても、今は暗雲が立ち込めているし、いいんじゃないか」
「ふむ。…太陽に似た個性を持つ彼女の表現に、「暗雲」か。上手いな」
「暗雲どころで済めばまだ良いが…前回の仮免で怪我人を出した上、次の試験日当日に大嵐など呼ばれては笑えない」
皮肉を交えたその言葉に、数名の職員が反応し、含み笑いをした。
会議が脱線していることに気づいた司会者が、机の表面を2度指で叩き、書記へ「ここも全部削除、いいね?」と念を押す。
「望み薄の「次の彼」の成長を待つよりも、「群のヒーロー」で穴を補うほか道はない。この方向性でいこう」