第7章 エンデヴァーの息子さん
「早かったんだな。緑谷達は?」
『私が通過した後、地面ごと分断されてどこに行ったのかわからないんだ。通過して欲しいね』
「そうか。きっともうすぐ来るだろ」
が轟を見て安心したように、轟もまた、の姿を見つけて安心したのか、彼の表情が少しだけ和らいだ。
激しい戦闘を終えてくたびれたのか、彼は壁際の手近な椅子に腰掛け、浅くため息をついた。
「…、座らねぇのか」
ここ、と指示するように、轟が隣の座席を軽く叩いた。
控室へ来てから、ずっと立食形式で食べ物を貪っていたは、コクコクと頷き、彼の隣へと移動した。
「自分もスタンプマン好きっスよ!!彼は熱いヒーローっス!!!」
部屋の中央から発せられた夜嵐の声が、部屋の隅にいる轟達のところまで飛んでくる。
闊達にお喋りを続ける夜嵐を眺めて、轟が一瞬口を開き、何かを口にしようとして、やめた。
『どうしたの?』
「…いや。…推薦なら入試ん時に会ってるハズだが…」
『……見たことない人なの?』
「……記憶に無ぇ」
そこで、轟との会話は一度途切れた。
は立食テーブルから食べ物を運んできては、轟の隣に座り、それを無言で食べ続けた。
彼女は食べ物を調達してくると、必ず轟にお菓子を分け与えてくれる。
そのおかげで轟の手元には、個包装のお菓子でできた小山がちょこんと出来上がっていた。
「…くれるのは有難いが、俺はいい」
『あ…ごめん。疲れてるかと思って』
そう言う間も、彼女はなんの変哲もない床をじっと見つめたまま、リスのように口へカントリーマァムを詰め込んで咀嚼し続ける。
轟は瞬きしない彼女の横顔を見つめて、気づいた。
「…」
まるで強迫観念に駆られるかのように。
また彼女は言った。
『私、お菓子とってくる』
「」
いつになく落ち着きのない所作で、音を立てて立ち上がったを見て、轟は彼女の片手を掴み、引き止めた。
轟の予想通りだった。
彼女の右手が、凍てついているようにひどく冷たい。
だとするなら、やはり。
「…緊張してんのか」
そう轟が問いかけると。
彼女はバツが悪そうに振り返り。
小さく小さく頷いた。