第1章 神話的な彼女
雄英敷地内、徒歩5分の築3日。
「ハイツアライアンス」寮前の広場に、雄英高校ヒーロー科1年A組の生徒たちは集められていた。
「とりあえず1年A組、無事にまた集まれてなによりだ」
無事に、という担任の言葉を聞き、数名の生徒たちが、後方に立つ爆豪へと一瞬視線を向けた。
クラスの注目の的となっている爆豪は、自分を心配している生徒達の生温かい視線に舌打ちこそすれ、普段のように怒鳴り威嚇することはしない。
先日、発生した神野事件。
大災害とも呼べる規模まで発展し、幾人ものプロヒーローが休業、引退に追い込まれる事態となったその大事件は、夏休み中盤、雄英高校が企画した「林間合宿」での襲撃に起因している。
近年、活発化しているヴィラン達。
その現状を踏まえ、雄英は、急ぎ生徒達に自衛の術を学ばせなければならない、という方針を固めた。
生徒を守るための林間合宿。
日時も場所も関係者のみ知る機密事項として扱われていた合宿地が、奇しくも、ヴィラン連合と名乗る犯罪者達の襲撃地となってしまった。
「オールマイトの引退がなけりゃ俺は、爆豪、耳郎、葉隠以外、全員除籍処分にしてる」
襲撃者のターゲットは、先日行われた雄英体育祭で、ヒーロー科らしからぬ凶暴性を見せていた爆豪勝己。
林間合宿で彼を連れ去った敵連合は、プロヒーロー達が神奈川県神野区の連合アジトに突入した際、激しく抵抗。
その乱戦を収めるため、この国の平和の象徴であるNo. 1ヒーロー、オールマイトが力を使い果たすまで戦った。
「彼の引退によって、しばらくは混乱が続く」
街を半壊させた最凶の敵は、オールマイトの手によって倒された。
しかし、敵が従えていたヴィラン連合のメンバーは、ヒーロー達の手から逃げ果せることに成功。
「敵連合の出方が読めない以上、今雄英から人を出すわけにはいかないんだ」
相澤のキツイ指導の言葉を受けて、生徒達の顔からみるみる生気が失われていく。
抑揚のない言葉をひとしきり並べ終わった後、相澤は生徒達に背を向け、寮の入り口へと歩き出した。
「正規の手続きを踏み、正規の活躍をして、信頼を取り戻してくれるとありがたい。以上!さっ!中に入るぞ、元気に行こう」
(((いや待って、行けないです……)))