第36章 影に咲く向日葵
彼女がぽそりと言った。
『………物が、燃えているのを見るとホッとする』
俺が知らない「彼女」が言った。
『手に取るもの全て。燃やしてしまいたいと思う。…カルラの炎にくべる薪にしてやりたいと思う』
何だって。
誰だって。
燃えてしまえばいいのに、と願っている。
「彼女」は言った。
『誰も、何も知らない。公安の連中も、私を分かってない。キミも、雄英生も、誰も。本当の私のことなんて誰も許容してくれやしない』
キミは
ずっと堪えていたのか、感情を爆発させた
『ホークス、貴方の剛翼が好きだよ』
『とても燃えやすくて、良い音で爆ぜるその羽が』
『燃やしても燃やしても数日後にはまた蘇る。不死鳥のようなキミが好きで』
『本当は今すぐにでも燃やしてやりたくて仕方ない』
ゴウッと白炎が立ち昇り、彼女を包んだ。
渡り廊下の屋根が一瞬で焼けこげて、塵になって宙を舞った。
その熱風に吹き飛ばされて、俺は数メートル先で受け身を取った。
白炎に取り憑かれているように見える彼女は。
見たことのない狂気的な笑みを浮かべて。
叫んだ。
『あまり、誘惑しないでほしい…!!大人になるほど感情が不安定になる…!我慢すればするほど、自分を隠せば隠すほど、個性が変容して扱えなくなった!!同じ夢なんか見れやしない、私は、貴方とは違うから…!』
俺の告白に対する、彼女の返事は。
『貴方と生きる、未来が見えない、貴方とは一緒にいられない、いつかきっと骨も残らないほどに、燃やしてしまうだろうから』
俺のことを初めて好きだ、と言ってくれた数秒後。
キミは、俺を燃やしたいと言った。
そんな悲劇的な想像を口にするキミは。
全く悲しそうに見えなかった。
ただ嬉々として笑うキミを見て。
俺に向かって放たれた炎の渦を見て。
俺は
自分の初恋が悲恋に終わったことを知った。