第5章 可愛い、超可愛い
ーーーーートゥルルルル
ーーーーートゥルルルル
ーーーーーピッ
「おっ、よかった。久しぶり。寝るとこだった?」
<…ううん、大丈夫。久しぶり>
10日ぶりに聞く彼女の声に、自分の胸が一瞬跳ねた。
誰が見ているわけでもないのに、俺はニヤつく口元を片手で隠し、コホン、と咳払いまでして、声色が変わらないように努めた。
「どうよ?そっちでの生活は。寂しくなったりしてない?」
<うん、なんとかやってる>
「なんとかってわりに、声が元気ないけど?本当は寂しいんじゃないのー?」
<個性が上手く使えなくて>
あーっ、この真面目っ子め。
「…ダーイジョウブ。俺も成長期の時、上手く飛べなくなったりしたから。一時的なもんだよ」
<…本当?ホークスも?>
「そうだよー。だから大丈夫大丈夫」
そんなことより、と言っちゃなんだけど。
明日、関東に行こうと思ってて。
それで、夕方。
良ければだけど。
<ねぇ>
「…えっ。なに、どした?」
<明日仮免試験だから、電話してくれたの?>
「へー!明日だったっけ。知らなかったぁー!」
<その反応は知ってたじゃん…>
「俺はただ君の声が聞きたかっただけなんだけど、せっかくこうしてタイミングよく電話で話してるわけだし、支持率No. 1ヒーローに聞きたいことがあるなら、なーんでも答えてあげちゃおうかなー。元気づけてほしいなら、超人気ヒーローから君だけに、元気が出るコメントをプレゼント」
やばい、また話が脱線していく。
(ちっがうだろ…!明日そっちにいくから、会おうって…!)
俺は羽交い締めにしていたクッションを床に叩きつけ、携帯片手に、意を決して、ソファから飛び上がった。
「っ明日…!」
<ホークス>
<、頑張れって言ってくれない?>
電話口から聞こえてくる彼女の鈴の音のような声。
俺は、彼女に求めてもらえたことが嬉しくて。
「…、頑張れ」
そう、言うことしかできなくて。
<…ありがと、嬉しい。おやすみなさい>
彼女をデートに誘い損ねた。
俺はゆっくりと羽を閉じ、ゆったりと着地して。
床に投げ捨てたクッションをガッと鷲掴み、自分の顔面に押し当てて、叫んだ。
「可愛いか!!!バリ、可愛いかー!!!」