第32章 変容
■月■日(雨)
思い出せと言われている気がする。
誰に?
何を?
何もわからない。
何を忘れたのかわからない。
ずっと頭の中がうるさい。
ホークスと電話した。
私が忘れた「私」のことを、彼は知っているのか気になった。
私が覚えているのは、彼と出会ってからのその先だ。
私の原点を知らない。
あれだけ叫び声を覚えている母の顔すら、暮らしていた家すら思い出せない。
彼は、彼と出会う前の私のことを、何も知らないと嘘をついた。
きっと今後も、何も教えてくれないだろう。
そういえば、りんごの本、中々読んでいて面白いと思った。
街中へ出かける時の交通機関の移動中に読んでいたら、知らない青年に声をかけられた。
その人もりんごの本が好きらしい。
ファンが集まる集会所があるそうだ。
今度来ないかと誘われた。
連絡先を交換した。