第28章 学生気分
彼女と二人、並んで。
轟は急須に湯を注ぐ。
ーーー轟よぉ、と付き合ってんだろ
ーーー付き合ってねぇし、狭ぇ
轟とは、恋人同士ではない。
二人の関係は、単なる友人関係に過ぎない。
親友、とまではいかないまでも、それなりに仲の良い友人同士。
それが事実。
それが現実。
だから、ショックを受けるようなことではない。
もし、自分が。
ショックを受けたんだとするなら。
ーーーじゃあじゃあ、付き合いたい?
ーーー付き合いたくはないよ
彼女のあの言葉だろうか。
だから顔が見れないんだろうか。
だから胸が苦しいんだろうか。
(ーーーー。)
『ーーくん』
「…え」
『こぼれてるよ、轟くん』
彼女の手が、轟の右手に触れた。
ゆっくりと。
急須からお湯がこぼれても、注ぎ続けていた彼の右手が制止される。
轟の視線が、自分の右手に添えられている彼女の指先へと移る。
目を離せずに、数秒間。
彼女の指先を見つめ続けて。
そっと。
離れていくその手に、視線をつられそうになって。
ようやく、我に返った。
彼女と、目が合った。
『大丈夫?体調が悪いの?』
淡く染まった轟の頬に。
の右手が触れる。
かぁっと一瞬で自分の顔が熱を帯びたことを察知し、轟がから顔を背けて、自分の右手で自分の顔面を鷲掴んだ。
シャン!!と自分の顔面に霜を浴びせ、凍結させ始めた同級生の奇行を目の当たりにし、がびくついた。
『本当に大丈夫?顔しもやけになるよ』
「ああ。…タオルとってくる」
『タオル、ここにあるよ。ねぇ、ここに…』
「…っいい」
水浸しにしたシンクから、足早に立ち去る轟。
呆気にとられ、立ち尽くす。
轟は誰もいない洗濯場へと駆け込み。
両手で顔を覆って、その場にしゃがみこんだ。
そして
「ーーーーーー……ッ…」
そういうことかよ、と。
自覚した。