第28章 学生気分
「文化祭があります」
in寝袋状態で直立した担任から告げられたビックイベント。
その福音を聞き、1年A組の大半の生徒たちは自席から飛びあがった。
「文化祭!!」
「ガッポいの来ました!」
やいのやいのとコメントをし始めるクラスメートたちの中から、スッと一人の生徒の手があがる。
相澤は寝袋の中からその生徒に視線を向け、「はい、さん」と発言権を与えた。
『ブンカサイとはなんでしょうか』
「なにボケかましてんだ!」
「、ふざけんの珍しくね?」
まるで一発芸でもかましたかのように彼女を嘲笑し始める数人の学友たちの言葉を聞き、は少しだけムッと口をへの字に曲げた。
どうやら、大真面目に質問を寄こしてきたらしい彼女の様子を見て、相澤が補足説明をする。
「、体育祭は知ってるな」
『…たまに警備依頼がかかるやつです』
「その認識で構わん」
「構わないの!?」
「文化祭ってのは」
体育祭がヒーロー科の晴れ舞台だとしたら、文化祭は他科が主役。
世間の注目度は比にならないためテレビ放映などはされないが、他科にとっては重要な意味を持つ行事だ。
そんな相澤の説明を、ムッとした表情のまましっかりと聞いているの座席は、教室窓際最後列の、隣席のない離れ小島だ。
轟は、左斜め後ろに座す彼女の不服そうな表情を横目で盗み見て、少しだけ微笑んだ。
(おまえ、そんな顔もするのか)
彼女が隣の人にひっそりと耳打ちをして教えてもらうことなど望めないその席にいる以上、担任に挙手をして解答を求める方が効率的だと踏んだのだろう。
「主役じゃないとは言ったが決まりとして一クラス一つ出し物をせにゃならん。今日はそれを決めてもらう」
LHRの議長を命じられた飯田と、八百万が席を立ったタイミングでクラスがまたざわつき始める。
轟は少し椅子を引いて振り返り、に声をかけた。
「あんまり気にすんな。よくわからないことがあったら、俺に聞いてくれ」
『…ブンカサイってどういう字を書くの』
轟が自身の筆箱とノートを取り出し、の机の上で「文化祭」と書いて見せた。
ようやく発音のイントネーションがつかめたらしい彼女は、『文化祭!』と小さく呟き、轟がコクリとうなずいた。