第3章 始めの一夜
『ケンカは、その日のうちに解決できるのが一番だよね』
「そうだよねぇ、明日もこんな感じかと思うと…せっかく焼肉だったのに、梅雨ちゃんだけ部屋食になっちゃった。みんなで仲良く食べたいよ。…でも、確かに、うちもその人達に言わなきゃいけないことがあるって思うから…」
が蛙吹用に焼肉を取り避けていたことに、一番先に気がついたのは麗日だった。
そんな彼女の言動から見ても、二人は一番の仲良しなのだろうということが推察できた。
「言いたいことって、まとまるまで言っちゃダメなんかな」
『いいんじゃないかな、友達同士なら。ビジネスならダメだけど。それにいつまで考えたって、自分の言いたいことがまとまらないなんてことはよくあるけど、蛙吹さんはいつまで考えてるつもりなのかな。相手は言ってもわかってくれないような人なの?』
「んー…みんな、話したら聞いてくれると思う」
麗日は、「わかってくれると思う」とは言わなかった。
二人で女子棟のエレベーターに乗り換え、蛙吹の個室がある5階を目指す。
エレベーターの扉が閉まった後、が一旦途切れた会話の続きを話し始めた。
『何をそんなに言えないのか私にはわからないけど、丸一日考えてから言いたいことを話すって、結構のんびりしてるよね』
「え、のんびり?」
『私はもっとヒーロー科って、今日一日を生きるためだけにずっと訓練してたり、勉強してるものだと思ってた。麗日さんは仲直りするなら、今しかないと思わない?みんなはようやく日常に戻ってきたんじゃないのかな。今日は敵の襲撃が「まだ」ないし、穏やかな一日に「なりそう」だよ』
がエレベーターから降りて、蛙吹の個室前で立ち止まったあと、その扉をコンコン、とノックした。
麗日が言葉を見つけることができず、しばらく間が空いた後。
キィ、と、扉の隙間から、蛙吹が顔を覗かせた。
『やぁ、こんばんは』
は蛙吹を見下ろして、問いかけた。
『笑って暮らせる日常の大切さに気づけたんじゃないの?だったら、時間を無駄に食い潰して、閉じこもってないで出ておいで。今まであなたが誰に何を話して、何を裏切られたのかは知らないけれど』