第26章 劣等生
「お久しぶりっスさん!轟!」
『お久しぶりです夜嵐くん』
「おはよう」
「轟よう好きなものは何スか!」
「そば。ザルの」
「カーーそばなら俺は温そばだ、そしてウドン派」
「合わねェな」
本日の仮免講習会場は、総合体育センターにて演習となった。
エリちゃんの保護対応を続けている相澤に変わり、今回の引率教師はみんなの人目を引くオールマイトと、地声の響くプレゼントマイクだ。
マイクが運転する車の後部座席に座り、轟と爆豪にサンドイッチされる形で講習場所まで運搬されてきたは、昨日の夜更かしのせいで目の下にクマができている。
「オールマイト!前の方でいっスかね!見やすいし!」
「ああ、なるべく目立たない席にしよう。皆の邪魔になる…」
二階に設置されている観客席の一画で、座席を確保しようとしていたプレゼントマイクとオールマイトの隣。
息子の姿を見つけるや否や、彼が叫んだ。
「焦凍ォオオオ!!!」
『…あ、轟くんお父さん来てるよ』
「知らねぇ」
炎をたぎらせ、存在感をアピールしてくるエンデヴァーの方向に対し、あからさまに背を向ける轟。
「あれ…エンデヴァーだ」
「えっ、あれオールマイトじゃない!?」
「わぁ!オールマイトだ!」
エンデヴァーの発見後、その隣にいるオールマイトを発見し、沸き立つ受講者たち。
あまりの温度差に、爆豪とが轟を一瞬見やり、何も言わずに講習の進行役となる公安の職員に視線を戻した。
『今日は授業参観なの?』
「…知らねぇ」
『……。』
知らね。
興味ね。
と、何を聞いても、そう繰り返す轟の反応を見て、はそれ以上エンデヴァーの話題を轟にすることをやめてしまった。
「俺はエンデヴァーの息子だが、お前の役に立てるほどエンデヴァーとの距離は近くない」
以前、轟からそんな話を聞いていた。
「親父に追い詰められて、母は俺に煮え湯を浴びせた。いっぱいいっぱいだったんだと思う」
大好きな蕎麦を口にしながら。
学校の食堂の片隅。
彼は教えてくれた。
轟家の内情と、彼の立ち位置、そして父親であるエンデヴァーの立ち位置も、ぽつりぽつりと、慎重に言葉を選びながら。