第22章 日常
「こんな時間稼ぎ要員、俺一人で充分だ」
普段の物腰、言動からは想像がつかない言葉を、天喰が発した。
『…天喰先輩』
「何言ってんスか!?協力しましょう!」
黙っていられなかった切島の言葉に、一人の敵が便乗した。
「そうだ協力しろ。全員殺ってやる」
「窃野だ!こいつ相手に銃は出せん、ヒーロー頼む!」
「バレてんのかまアいいや、暴れやすくなるだけだ!!」
売り言葉に、買い言葉。
またもや両者勢いづき、乱戦になりかけたその時。
天喰が両方の陣営の距離を取るような軌道で、巨大な貝殻を投擲した。
「窃盗、窃野。結晶、宝生。食、多部。俺が相手します」
蛸足で敵三人をまとめて絡めとり、壁へと打ち付ける。
打撃時に回収していた敵の武器は、硬い甲殻類の爪で破壊した。
「こいつらは相手にするだけ無駄だ…何人ものプロがこの場に留まっているこの状況がもう、思うツボだ」
スピード勝負なら、一秒でも無駄に出来ない。
地下を突破するプロの個性も、拳銃を持つ警察も。
絶対に無駄にはできない。
親友が敵を追いかけている。
誰かが加勢に行かないと。
「俺なら一人で三人完封できる!」
広間に天喰の声が響き渡る。
学内の彼の姿勢からは、考えられないような威勢の良さを目の当たりにして、誰もが閉口した。
そんな空気の中、初めに口を開いたのは。
この場で、彼と何の接点も持たないはずの彼女だった。
『天喰先輩』
彼女の声に後ろ髪を引かれ、天喰は振り返った。
は、ただじっと。
真剣なまなざしで天喰を見つめている。
そして、言った。
『ーーー必ず』