第20章 片道
「死穢八斎會に囚われている少女の救助作戦支援。これがキミの仮免許試験正式合格を後押ししてくれる」
叩きつけるような雷雨が上がった翌日の朝。
朝食を手軽に済ませて、二人はリビングの広いソファを贅沢に使うことはせず、仲睦まじく寄り添って腰掛けながら、作戦の詳細を打ち合わせた。
ホークスは作戦資料をタブレット上で操作しながら、時折、作戦内容にさも興味がなさそうなあくびをしてみせる。
大方、まだ寝足りないのだろう。
はそう判断し、ホークスの手の中にあったタブレットを抜き取った。
「ねむい。ごめん」
『眠れなかったの?』
「いや?そうでもないけど」
『そう』
さもホークスに興味がなさそうな返事をする彼女。
「…やっぱりちょっと眠れなかったかも」
『そうなの?どうして』
「雨の音がうるさくて」
『そう』
「………いや、考え事してて」
『どんな?』
「んー--。いやー-、それはキミにも言えないな」
『そう』
「………………………」
何年も、十数年も、人生の大半を彼女と一緒に過ごしてきたはずなのに。
未だに彼女の気を引く方法がわからない。
「カマッテ」
『………?…かまう?』
「…嘘、なんでもない」
(いい歳して…恥ずかしい)
言ってから我に返ったホークスはおもむろに立ち上がり、キッチンへと二人の飲み物を注ぎに移動した。
『これは、参加メンバー?もう決まっているの?』
「何人か雄英生も混じっているよ。どうやら敵連合と八斎會が接触したようだという話も流れてきてる。俺の「担当」からではないけれどね」
『……へえ』
「クラスの子たちとは仲良くなれた?」
らしくないことを口にした。
言ってすぐ、仲良くなってどうする、という突っ込みをいれる言葉がホークスの頭の中に浮かんだ。
『…うーん。仲良くなれそうな子もいる』
「…へえ」
そんな素直な返事が返ってくることは、予想外だった。
「…それってこの前の焦凍くん?」
『…うん。彼は…すごく優しいんだ』
「キミからそんな話を聞くとは正直思ってなかったよ。だってフツーの高校生。嫌いだろ?」
『…うん。「普通」の子は、嫌いだね』