第19章 二面性
覚醒から1秒。
瞼をこじ開け、仰向けの状態から即座に飛び起きようとしたの首元に、羽先が触れた。
「動くな」
静まりかえった暗い部屋の中。
辺り一面の闇のどこかから、聞き馴染んだ声がした。
「敵と何を話していた」
続けざまに、姿が見えない彼から言葉が飛んでくる。
彼は意図的に部屋の灯りを全て消したのだろうが、カーテン越しに漏れてくる街灯の淡い光のせいで、の視界を完全に奪い去ることはできていない。
は、自身を取り囲んでいる幾つもの剛翼の気配を察知し、様子を伺うかのようにゆっくりと口を開いた。
『…何も、話していません』
「話もしないのに、なぜあんなに長い間視線を交わしていた?まるで友人同士のようだった」
『……ホークス』
「答えろ」
彼は今回の件に関して、聞く耳を持つ気はないらしい。
はなんとも説明し難い突然の遭遇を思い出し、ぽつりと答えた。
『…偶然』
「偶然?、キミは前回も指名手配犯に接触し、取り逃した。キミは「二度も」、指名手配犯と「偶然」出くわしたって言うのか?」
『他に言いようが』
「今年の6月、キミは血狂いマスキュラーと「偶然」出くわし、彼をとり逃した」
の頭の中に、指名手配犯の男の顔がフラッシュバックした。
「マスキュラーはその後、敵連合に合流し雄英高校の生徒たちを襲った。キミが今日取り逃した荼毘は、その作戦時のリーダーだった。日常を過ごしている中で、指名手配犯と二度も偶然に出会うことなんてそうそうない。誰だってキミと敵連合が繋がっていると考える」
そこで一度。
ホークスは言葉を切った。
そして、闇の中から姿を見せて、の目の前まで歩み寄り、立ち止まった。
「…どうして、すぐ俺を呼ばなかった?」
『…荼毘が隙を見せてくれなくて』
「違うよ」
彼は、沈んだ顔でソファに座る彼女を見下ろし、まるで壊れものを扱うかのように。
そっと、その頬に指先で触れた。
「具合が悪いって連絡をくれれば、キミのもとへ飛んで行ったのに」
鷹見は、そう囁いて。
自身の腰を屈め、彼女の額に自分の額を押し当てた。
「…もっと早く、キミを見つけていれば良かった」