第18章 美化委員の特権【北信介】
「ったく!なんで私らだけ……」
「やると決めたんなら、文句言わんで手ぇ動かし」
「……くっ!」
気温は30℃を越す猛暑日。
梅雨の中休み。
太陽にジリジリと肌を焼かれる。
汗は止まる事無く吹き出てきて、熱は身体にどんどん吸収されて蓄積する。
水が数センチ溜まるプール。
足だけは冷たくて気持ちが良かった筈なのに、この照りつける太陽によって徐々に生温いものに変わっていく。
「もぉー!!暑すぎやろ!?おてんとさん、夏季休暇とれや!!」
「そら無理な話やな。おてんとさんは夏の今やからこそ休まんで……」
「ぐぬうぅ!!北くんっ!!今は正論パンチ止めといて!!」
クラスメイトの北 信介と二人きりで、この広いプールを掃除するなんて。
こんなの、誰が予想出来たやろか。
✴✴✴
『……は……?』
『せやから、これ以上待っても誰もこーへん。俺ら二人でやろ』
美化委員長である北くんからその悲報が告げられたのは、放課後すぐの事やった。
部員が一人もおらんで廃部になった水泳部に代わり、美化委員会が今年のプール掃除を受け持つ事になったのだが。
他の委員会メンバーは、誰一人として姿を表さへんかった。
運動部が盛んな稲荷崎(うち)としては、水泳部が潰れたっちゅうだけでも厄年みたいなもんなのに……。
『私ら以外、全クラスの美化委員サボリとか……ありえへん!!』
『まったくや。天気だけは文句なしやっちゅうのにな』
『なにも今日無理してやらんでも……もっかい人集めて後でやるとか……』
『けど、週明けからすぐプール開きやしなぁ』
この危機的状況に、顔の色ひとつ変えない北くん。
そんな彼は、私に理不尽な二択を迫った。