第15章 あたりまえ【北信介】
「信ちゃん、ごめん!!待った!?」
これがデートの待ち合わせやったら、私は愛想尽かされてまう。
「今日はあんまり待ってへん。けど、お前が俺の朝練の時間に合わせるとか、やっぱ無理があんで」
ウチの門前で淡々と言い放つ、バレー部主将の信ちゃん。
いつも遅刻ギリギリ常習の私を見かねた親が、一個上で幼馴染みの信ちゃんとの登校を提案してから2週間。
信ちゃんは朝練あるし主将やし、無論この性格やから、朝が兎に角めっちゃ早い。
待ってられへんで、先に行ってもらった事は何度もある。
親的には私が早起きして学校行くもんやから万々歳。
実は私の方も、早起きの辛さよりも、信ちゃんと並んで一緒に登校出来る幸せの方がデカかったりする。
まぁ総合すると、願ったり叶ったりってやつやな。
「今朝の時間でギリギリや。あれ以上は待てへんからな」
「はぁい!でも、早起き少しずつ慣れてきたで!信ちゃんと一緒に登校したい気持ちを毎朝奮い立たせてんねん!」
「立ち止まってへんで、早よ歩き」
私は小さい頃から信ちゃんの事が好き。
一人っ子の私にとってお兄ちゃんみたいな存在の信ちゃんは、頼りになる優しい人。
アホでズボラな私とは真逆なんやけど、なんやかんやあったかく見守っててくれる信ちゃんが大好き。
こうして頑張って早起きしとんのも、学年が違う信ちゃんと少しでも一緒におりたいから。
でも信ちゃんは、こんな私なんか眼中に無い。
きっと、しっかり者で何でも器用にこなす美女が好きなんや!……って考え始めると、色気までも無い私は凹んでまう。
「せやけど名前。こんな早い時間に学校行って何しとん?」
「寝とる!!」
「アホ」
アホは認める。
せやから、ずっとずっと知りとうて堪らん「信ちゃんの好きなタイプ」。
そんなん聴けへん……!
そんな話でけへん……!
またアホやって笑い飛ばされて、ほんまに凹んでまうから……。
「寒なってきたな」
「せやな、信ちゃん」
気付けば、吐いた息が白くなる季節。
只の幼馴染みって思われとっても、信ちゃんと一緒におれる限られた時間はめっちゃ大切。
信ちゃんの卒業はもうすぐやから。