第14章 レインドロップス【澤村・及川】
*名前side*
不器用な反応が可愛くて、私はそのまま大地の胸に顔を埋めた。
黒のジャージからは大地の良い匂いがした。
憧れて、信頼して、尊敬して、大好きになった人。
結ばれた彼との大切な時間は、時計が動いてないみたいだった。
高い壁もあった。
でも、想い続けていればそれも越えて行けるんだって、2人でなら越えて行けるんだって分かった。
想い続けて、想い合っていれば……
実は高い壁なんて、無いのかもしれない。
「……名前」
「ん?」
不意に大地の低い声が、上から降ってくる。
彼を見上げたら、形の良い唇が目に入った。
「……しても、良い?ココに……キス」
私の唇を遠慮がちになぞる、男らしい指。
「……ちょうだい?大地の、あったかいキス」
私は目を閉じて、大地の唇を待った。
肩に両手を置かれて、そっと重なる唇。
くっ付けたまま何秒間か止まって、お互いの体温を確かめ合う。
至近距離に居る大地を感じて、私は彼の頬に手を置く。
大地は不器用ながらに角度を変えて、唇を上へ上へと重ねてくる。
「……ん」
自分自身も、大地も、顔が熱い。
大地の頬を触る自分の指先に、彼の熱が伝わっていた。
今日の試合中に負傷してしまった所を、優しく優しく撫でた。
「はぁっ」
軽く舌を入れてきた大地に、私は呼吸を合わせる。
外寄りの口内や唇、慎重に浅い所を舌先でなぞってくる。
「ん、ん」
「はっ……」
唇が離れた瞬間の大地は、今までの学校生活では見た事が無い、余裕が無い「男」の顔だった。
「私ね、及川とはキス……した事が無かったの」
大地を少しくすぐってあげたくなって、わざといたずらに言う。
「名前、それって……」
「私がキスしたかったのは……大地だけだから」
仙台市体育館の外に出ると、雨はもう止んでいた。
私の罪を洗い流してくれていた雨。
その必要は、もう無くなったんだね。
「大地!おせーぞー!!」
「スマン!」
もう、私が私を咎める事は無いから。
もう、洗い流すものは何も無いから。
全部、綺麗になったよ。
だから、今までありがとう。
雨粒たち。
END