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追憶【レイトン教授】

第8章 【番外編】――煙草を吸う理由――






ルークとレミの視線がに向けられるのを彼女は肌で感じていた。
持っていた紅茶のカップを静かにソーサーへと戻す。

「…………息を、してるって確認するため、かな」
「え……?」

意味が解らないと首をかしげるルークとレミ。
――わからなくていいよ。
静かでこれ以上詮索しないでほしいという願いが込められていた。
本当はもっと踏み込んで聞き出したいという欲をぐっと息を呑み、抑え込む。

は煙草の箱を見つめる。
思い出すのは、煙草を差し出してきた人物のこと。
正直、それが誰なのか思い出すことはできない。
だけど、あの日にその人物は彼女の煙草を差し出してきたのだ。

――一本、吸ったらどうだ。

なぜそんなことを言ってきたのかわからなかった。
しかし、彼女はそれを受け取り息を吸い込んでそして咽た。
と同時に、自分は呼吸をしているのだと認識できた。
涙が溢れた。
呼吸をしていること。苦しくて咽たこと。涙が溢れたこと。生きていること。
当たり前のことを、忘れていた。

生きているって、思い出すために吸っていたんだけどな。

いつの間にか、彼女にとって煙草は生きるための必需品となっていた。
思い出すためではなく、生きるための。

煙草をくれた人が今どこで何をしているかなどわからない。
どこでもらったかも正確には覚えていない。

「禁煙は当分無理かなぁ」

ぽつりとつぶやいた独り言はレイトンの耳にだけ届いていた。
レイトンは知ってる。
彼女が煙草を吸う理由を。その意味を。
本当は禁煙してほしいと願っているが、彼女のことを思うとそんなことは言えない。
そして同時にその一言がレイトンの心臓を重たくさせた。
未だに過去に囚われている彼女に、慰めの言葉一つ欠けられない自分自身に嫌気がさした。

英国紳士の名折れだ。

彼もまた、過去に囚われているということにも気が付かずに。
ソファから腰を上げ、ゆっくりと窓辺へ歩いていくは煙草を取り出し、フィルターを咥えた。

カチ。

先端に火をつけ、数回ふかし、ゆっくりと煙を吸い込んだ。
今日も生きていると、感じながら。





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