第8章 【番外編】――煙草を吸う理由――
「さんって、もしかしてヘビースモーカーですか?」
ホテルへ戻り、魔人が出るのを待って早1時間が経った頃。
窓際でルークと共に外を観察していたレミは、少し離れた場所で煙草を吸っている女性に話しかけた。
彼女の近くにある灰皿は既に煙草の吸殻でいっぱいになっていた。
「あー……うん」
自分で気が付いていなかったのだろう。
灰皿に目を向けて、眉を寄せた。
「何か考え事をしている時やぼうっとしている時なんかはずっと吸っているよ」
ふふ、と笑い紅茶を口にするレイトンに申し訳なさそうに頭を掻いた。
研究室では吸わないようにしているが、どうしても服に染み付いた煙草の匂いがソファや椅子などに染み付いてしまう。
その度に窓を開け換気をしている。
最近では除菌スプレーを持ち歩くようにしているのだが。
「この前レイトンさんの生徒に文句言われちゃいました」
「はは、君のことを心配しているんだよ」
講義が終わった昼休みにすれ違った生徒に「煙草吸いすぎですよ」と注意されたうえ、「これじゃ女性にモテないのもわかりますね」とまで言われた。
生徒はが女性だと知らない。
女性だとわかっているのはレイトンと学長のデルモナとお掃除係のローザ、そして一部の教授だけである。
そのことを思い出し、吸っていた煙草を灰皿に押し付けた。
「でも私、少し煙草に興味あります!」
「やめた方がいいよ。肺は真っ黒になるし、早死にするし、お金かかるし、服に匂い染み付くし、いい事なんて一つも無いんだから」
乾いた笑みを浮かべながら、は一人用のソファに腰かけ、紅茶を淹れた。
禁煙しようと思った時期もあったが、気づけば吸っていたり意味もなくイラついたりして、禁煙をすることを辞めたのはいい思い出だ。
――じゃあ、なんで吸っているんですか?
微かに。彼女の。動きが。止まった。
それを見逃さなかったレイトンだったが、何も言わずにゆっくりと目を閉じた。