第9章 エンドロール
本田さんがあちらの世界に帰る回数が増えた。
向こうに行くの、週に1日くらいかなぁ。
ここのところ会議が多いみたいで、そんなかんじ。
勉強の進み具合もあるし、これくらいがちょうどいいのかな、と思いながらもやっぱり寂しい。
そんな中、ギルベルトさんから着信が入った。
「もしもし?」
「おお、本田か!?」
「いや、今は村崎です」
「そうだった。紛らわしいヤツだなぁ」
いつもわずらわしく感じていたギルベルトさんの深夜の着信もうれしい。
「…ギルベルトさん、」
「ああん?」
「まだ、切らないで」
「…どうした?」
急に心配そうな声色に変わった。
なんだかすごくうれしい。
「うん…。
私のこと、ルートさんとギルベルトさんしか知らないんだなって思って」
もしも本田さんと入れ替わっても、誰も気づかない。《私》と一緒にすごした日々は本田さんと過ごした日々になってしまうんだ、と思ったら無性に寂しくなった。
「俺とルッツだけじゃねえだろ?
リヒとバッシュだって、《お前》という人間を知ってるだろ?
あいつら、『お前の名前を知らない』って寂しがってたぞ」
そうだ、二人も。
私を…。
「そっか…。そうだね。私二人にちゃんと名前を教えてないや」
「今度こっち来たときにでも、教えてあげろよ。かわいそうだろ」
「うん。ありがとう、ギルベルトさん」
そう言って、その日は通話をやめた。
なんだか少し元気が出た。
会いたいな…リヒちゃん、…バッシュさんに…。