第7章 虎穴のワルツ編
「どうぞ、末永く大切に育ててください。育て方は私にもわかりません」
いわく付きの楽譜をその場で燃やしたローデさんは、抜け殻のようになってしまったローブの男を引っ張って門までつれて行ったあと、そう言って悪魔を指差した。
ずいぶんとなついているようだった。
何も言わず、空を見たまま男はゆらゆらと歩いてどこかへと帰って行った。
「拍子抜けだったな。まさかあんなかわいい悪魔ちゃんだったとはね」
ローブの男ほどじゃないけれど、私たちも呆然とローデさんの行動を見ているしかできなかった。
男の姿が見えなくなったあと、冷静になったフランシスさんがぽつりと言った。
「最後まで演奏されなかったから未完成だったのか、あれで完成体なのかはわかりませんが、とにかく無害そうでよかったです」
ローデさんもやっと肩の荷が下りたらしく、柔らかい表情をしていた。
(あ、よかった)
そんなローデさんを見ていたら私もうれしくなって口元が綻んだ…が。
「何?笑ってんだ。こっちは気が気じゃなかったんだぞ」
といってギルベルトさんに頭を掴まれた。
「いたた…!その割にはずいぶん楽しそうでしたけどね!」
「そんなことねえよ!
お前、見かけによらず無鉄砲で考えなしで、こっちははらはらしっぱなし!」
その辺は反省しております。
「まあまあ。とりあえず紅茶でも飲んで、一息つきませんか?」
結構本気で怒られていた私を見かねて、ローデさんが助け舟を出してくれた。
「私はとても感謝していますよ。ありがとうございました」
と、応接間への廊下で、こっそりとお礼を言ってくれた。
そして、
「ちょっとー!ここどこなん?みんなどこ行ったんや!おーーーい!!!」
地下で一人叫ぶ男のことを思い出すのは、もうちょっとあとの話。