第5章 どんだけ夏まっさかり!
「おねえさーん、両手ふさがって大変じゃない?一個持とうか?」
「彼氏と来たの?」
どこの海でも誰かれ構わず声をかける男と言うのはいるものだ。
「はい、そうです」
私はそう言ってもと来た道を歩いて行く。
「ちょっと待ってよー」
笑いながら鼻に抜けるような声を出す男たち。蹴っていいかな。
無視していたら道をふさいだり腕を触ったりしてきた。
でも、イカ焼きがあるのでむやみに走ったりできない。ほんとに蹴っていいかな。
そんなことを考えていると、
「待ちたまえ!」
どこかで聞いたことのある声がした。
振り返ると、真ん中に『筋肉バスター』と書かれた仮面をつける男が立っていた。
「なんだこいつ!?」
「夏の海は危険がいっぱい!そんな海の平和を守る、筋肉バスターマン、参上!」
赤いマントに赤のブーツに赤い海パン。
浜辺でひと際目立つその男。高笑いと共に海の家の屋根から飛び降りた。
しかし、マントが足に絡まってうまく着地できずにそのまま転げ落ちた。
「なんだこいつ…おい、あっち行こうぜ」
ナンパ男たちは関わりたくねぇ、とそそくさと去って行った。
「これからがいいところだぜー!」
そう言って筋肉バスターマンはナンパ男たちを追いかけていく。
長所は打たれ強さとしつこさのようだ。
「…なんだったのかな…」
私は茫然と赤い背中を見送った。
「あの…筋肉バスターマン様」
私はお姉さまを救ってくれた恩人の後を追っていました。
「お、リ…なっなんだね!」
「あの…姉さまが危ないところ、助けてくださってありがとうございました」
そう言って深くお辞儀をすれば、筋肉バスターマン様は、「正義の味方だからな!当然のことだ!」と言ってくださいました。素敵な方ですね。
そして彼は笑いながら足早に人ごみの中へと消えてしまいました。
真夏の海、一度だけの逢瀬。
私は恋をしてしまいました。
また来年、あの方に会えることを切に願っております。
あとがき
さて、筋肉バスターマンは誰だったのでしょう。