第1章 なんの前触れもなくとりかえばや!
「準備はできたか?…本田」
「…心の準備のほうはまだです」
私は軒先で腕組みするルートさんを涙目で見上げた。
朝起きたら、見慣れぬ天井があった。
寝ぼけているのかと思って二度寝をしてみたけど、やっぱり変わることはなかった。
空けっぱなしの障子の向こう側の美しい庭園を眺めてボーっとしていると、不意に、
「おい!いるか!本田!返事がないけど入るぞ!」
まくし立てるようにそう言って誰かがドスドス入ってきた。私は思わず上半身を起こした。
(あ、土足じゃん)
足音を聞いてボーっとそんなことを考えていると長身の青年が私の前に現れた。
しかし、初見のような気がしない。
「…はぁ~…」
私の姿をみるなり、その人物は大きなため息をついてその場に座り込んだ。
私はいまだに夢うつつで、その人物を見つめていることしかできなかった。
「…やっぱり…本田じゃないよな、どう見ても俺にはお前が女にしかみえん」
「…女ですけど…あなたは…」
「ルートヴィッヒ。ルートでいい」
「…ルー…。ルート…さん!?
うっわぁーーーーーーー!!!?」
あのかの有名な、あの漫画のあの人だ、と私はその青い目を見て思いついて叫んだ。
「…お前の名は?」
「で。
村崎…といったかな」
「はい」
私はルートさんと使い慣れない茶の間で膝を突き合わせている。
さすがにパジャマ姿を見られ続けるのは苦しかったため、悪いと思いつつタンスを荒らさせてもらった。
しかし、さすが本田さん家。着物ばっかり。
着方が分からなかったため、浴衣を拝借した。…浴衣も夜着っぽいけど、パジャマよりはいいか。
「まぁ…なんだ、俺からというか…本田からの頼みなんだが、聞いてくれ」
「本田さんから?」
「ああ」
そう言ってルートさんが出したのは携帯電話。
そしてそこには短文のメールが。