第1章 [鬼舞辻 無惨]
「…この女は私が預かろう」
無限城への潜入任務を任されたトリ。
呼吸で発する匂いから下っ端を惑わせて鬼舞辻無惨の所まで案内してもらう事が出来た。
下級の鬼を部屋から払い、2人きりになる。
無惨から放たれる匂いは目眩が起こりそうなくらい欲にまみれていてくらくらする。
手錠をされており、ペタリとその場に座り込むしか出来ないトリは気を失わない様に自身の手の甲に爪を立てる。
「それで…何が望みなのだ?ここまで1人で来て。わざわざ犬死にに来た訳では無いだろう。」
トリが鬼殺隊だということ、高屋敷の司令でここに潜入した事もわかっている様な言葉の言い方だ。
「私はキイロイトリと、申します。鬼殺隊の柱として勤めており、匂いを扱います。また、特異体質で体液を混ぜ合う事で人間の傷を癒したり、鬼に対しては稀血の様な効果があります。ただ、その代償は大きく、その効果が出るには苦しみを伴うといわれ、また、私の肉は鬼にとっては毒であり食べる事はお勧めしません。」
ほう…と、トリの匂いから察したのか、希少価値の高い稀血の代替えになると判断した。
「その苦しみに耐えれば力が与えられると?」
「はい、何度もまぐわう事により永遠も手に入れる事が出来るとも言われております。ただ、毎日では効果が出ないため、その期間は私を鬼殺隊の元は帰還させることが条件です。」
永遠という言葉にぴくりと動きを止めて、トリを見る。
「まったく…高屋敷は何を望んでいるのだ。」
「貴方が私に欲情をして、この肉を食べる事、そして、鬼を抹殺する事だと思っております。」
「…なる程、我慢比べと言うものか。」
はははっと、乾いた笑い声を上げる無惨。
「わかった。お前の条件を飲もう。ただ、本当にその様な効果があるのか、試して見てから帰還させるかを考えてやる。」
じゃらっと、鎖の着いた革の首輪を手に持ちトリの前にしゃがみ込み、無惨自らトリの首に首輪を着けてやる。
冷たく冷んやりした指が緊張から熱くなった首筋を触る度、びくりと身体を震えさす。
「許可無く、勝手に帰還したら高屋敷や、その他多くの人間が死ぬ事になる。それは肝に命じておけ」
はい…と、震える声を抑えながらか細い声で返事をして、無惨に鎖を引かれ、その後ろを歩く。