第3章 眼鏡にスーツ[煉獄杏寿郎]
「7時には帰る」
と、恋人の帰宅連絡がトリのスマートフォンに知らされる。
まだ、夕方の5時。帰って来るまでにご飯の支度をしたり、色々準備が出来ると思い、スーパーの買い物を済ませる。
そう、トリはある企みをしていたのだ。
トリと煉獄はキメツ学園の生徒と教師で、在学中に交際がスタートした。
卒業するまで手は出さない!と、約束させられて、卒業をしてから動物園デートのお泊りの日に処女を煉獄に捧げた。
現在は、パティシエールを目指す為に製菓専門学校に通っている。
高校生の時から、真面目で成績優秀の優等生で、生徒からも教師からも評判が良かった。
それは今も同じ。
ただ少し子供っぽい所もある。
トリは会う度に煉獄に惹かれていた。
自分に無い大人な魅力、包容力、器の大きさ。
その格好良さが少しトリには悔しかったり。
些細な事で喧嘩したり怒ったり泣いたりしているのは私ばっかり…。と、そこに張り合う意味は感じられないが、なんか、悔しいと、最近思う様になってきたと。
困った顔、照れてる顔をさせて大人な余裕を無くしてやろう!と、思いたったが、好きな人を本気で困らせたく無いし、悩んでいた。
「学生の時の制服着て、お迎えしてみたら?」
と、相談してみた友達に言われてそれだ!と、思い立ったのがきっかけで。
煉獄の好物の夕飯を沢山作って、シャワーを浴びて準備しておいた学生服に袖を通す。
(煉獄さん、どんな顔するかな…早く着替えなさい、折角のご飯が冷めてしまうだろうって、怒られちゃうかな…)
玄関を開けた時の煉獄の言動を想像して、くすくすと笑うトリ。
ガチャリ、と、玄関が開いた音がして、玄関の方へパタパタとプリーツのスカートを揺らしながら走っていく。
「お帰りなさい、煉獄先生!」
「ただいま、トリ。先生と呼ぶなと言って…いる、だろ…」
靴を脱ぐ為に下を向いて居た煉獄が顔を上げると、紺のハイソックスに膝丈のプリーツスカート、Yシャツに淡い黄緑色のネクタイを締めて、ベージュのカーディガンを羽織るトリがいた。
「えへへ。先生、お帰りなさい。」
今度はまん丸と驚いた表情の煉獄を見ながら言う。
「似合うかな?こうやって高校生だった時も、煉獄先生の事、お迎えしたかったんです。」