第1章 [煉獄杏寿郎]
煉獄は、任務後の怪我の療養の為に胡蝶屋敷に来ていた。
呼吸のお陰で血鬼術の周りも遅く、怪我も大した事が無いから鍛錬に戻りたいのだが。
「煉獄さんにしては大した事ない怪我かもしれませんが、一般的に見たら酷い怪我なので、1週間は療養してくださいね?」
と、胡蝶の言葉を思い出し、縁側で日の光を浴びている。
すーっはーーーっと、全集中の呼吸、常注を行う。
「トリー!」
全集中の呼吸…
「キイロイ」
…全集中の呼吸…
「ぴよちゃん〜」
……全集中の呼吸………
そう、煉獄のいる縁側の近くの庭には煉獄が想いを寄せているトリと、かまぼこ隊と言われる三人も機能回復訓練を行なっていた。
カッと煉獄は目を見開く。はぁーっと、口から深く重い溜息をつく。
(よもや、よもやだ…。こんなことで精神が乱れるなんて柱として不甲斐なし。集中、集中…精神統一、心頭滅却…)
うぎーっと、悶える煉獄。
ふーーーーっと、息を吐き、水でも貰って来ようと煉獄は立ち上がり、縁側を後にした。
そんな、煉獄の様子をかまぼこ隊の機能訓練を行いながら、見ていたトリ。
その後も、トリの姿を見つけては声を掛けようと思っていた煉獄だが、トリは大変みんなの人気者なのを知っている。
呼び止めようとすると、別の鬼殺隊員がトリの名を呼び、そちらへ行ってしまう。
少し話せたかと思うと、胡蝶や他の柱に呼ばれて行ってしまう程忙しいのも、知っている煉獄。
(困ったな…どうしたものか。ただのわがままじゃないか。)
日の光に当たらないと血鬼術は良くならないから浴びて下さい!と胡蝶に煩く言われているが、そんな気にもならない煉獄。
部屋から出るのが億劫で中々出るに出られない煉獄。
「トリと名を呼んで、話をして、触れたいだけなのに、な。」
こんなにも度胸が無かったか…と、苦虫を噛み、髪をかきあげ、ぼそっと小声で呟いた。
コンコン
「煉獄さん?失礼します。」