第3章 気分屋フィクル!【フロイド】
ヒカルが頑なにナイトレイブンカレッジの生徒になるのを拒んだ理由のひとつに、これ以上勉強をしたくはない、というものがある。
好き好んで勉学に励むような勉強大好き人間ではなかったし、成績や評価を気にしながら生きるのはもう嫌だ。
その点、用務員はいい。
もちろん仕事を怠ければ雇い主であるクロウリーの評価が下がるけれど、与えられる業務は頭を使うようなものではない。
それになにより、学生と社会人の違うところは、努力がお金に変わるところ。
クロウリーは自身を「優しい」と評するだけあって、働きに応じて適切な賃金を払ってくれる。
不便を強いているからといって、家賃と学食代は学園持ちという神待遇。
一度だけ就職したブラック企業に爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。
けれどもヒカルの生活の中心はこのカレッジであり、トリップ前の生活のように友人との交際費や、ストレス解消のためのショッピング代は必要ない。
オシャレな服を買おうにも、着て行く場所がないからだ。
課金なんてもってのほか。
なんといってもヒカル自身がツイステの世界に来てしまった。
では、お金なんか必要ないんじゃないかと思うだろう。
いや、お金は必要だ。
このナイトレイブンカレッジにも、ヒカルが貢ぐべき場所が……ひいては人物がいるのだから。
「お待たせしました。こちら、スペシャルドリンクです。」
「ありがとう。」
とん、とテーブルに置かれたスカイブルーの炭酸飲料を受け取り、ヒカルはにっこりと微笑んだ。
ここは、モストロ・ラウンジ。
オクタヴィネル寮にある、学園唯一の社交場だ。
爽やかなドリンクを口に含み、喉を滑らせながら視線だけを散らすと、厨房とフロアを行き交うウエイターの中に、ひと際輝く男性を見つけた。
(あ、いた、ジェイド! ふあぁ、格好いいな。)
ヒカルの頬がぽぽっと紅潮する。
店内の照明が薄暗い光彩を保っていなければ、熱でもあるのかと心配されるくらい。
熱ならある。
トリップする以前から、ヒカルはずっとジェイドにお熱。
この想いは今も以前も変わらないけれど、以前と異なる点は、貢ぐ先が課金からラウンジに変わったところだ。
ジェイドがオーダーを取りに来てくれる瞬間だけを願って、給与のすべてをラウンジに捧げる。