第5章 御都合ライアー!【トレイ】
「それが…理由なのか……?」
虚を突かれたような、意外そうな顔。
実際の理由は違うけれど、もうそれでいい。
好きだと嘘をつかれたことも、好きじゃないから抱けないことも、どちらも同じようなものだ。
「誤解だよ。あれは、違う。そうじゃなくて、ヒカルをもっと大切にしたかったんだ。」
「そうなんだ。」
トレイの言葉は、もはやなにも響かない。
作り笑いを張りつけたヒカルの態度に、トレイもそれを感じ取ったのだろう。
「誤解させてしまったのは本当に悪いと思ってる。なあ、どうしたら信じてくれるんだ?」
ヒカルは黙って、首を横に振る。
ヒカルとトレイの信頼関係は、とうの昔に破綻しているのだ。
「……今ここで抱けば、信じてくれるのか?」
「トレイ……。」
馬鹿なことを言わないで。
そう詰るつもりで開いた唇を塞がれた。
「ん…ふ……ッ」
ぶつかるようなキスはこれまでになく激しく、逞しい両腕がヒカルの背を掻き抱く。
どうしてそこまで。
問い掛けたくても言葉にできず、荒ぶる口づけを受け止めた。
これほど失望しているというのに、不思議なもので不快感はない。
ただ、胸の奥に引き絞られるほどの痛みを感じるだけ。
いつの間にか背後にベッドが迫り、体重を掛けられて押し倒された。
両手首を握られて、シーツの上に縫い留められる。
明日、真実が明るみに出れば、こんなふうに求められることは二度となくなる。
赤く派手な天蓋も、アンバランスなインテリアも、この部屋で過ごした日々はすべてが思い出に変わる。
短く長い、夢のようだった。
だから最後に、良い思い出を。