第4章 片恋コンサルテーション!【アズール】
とある世界に、魔法の契約を交わした男女がいた。
ひとりは、オクタヴィネル寮史上随一の秀才であった寮長。
ひとりは、なんの力も持たない異世界人の女。
才能も地位も吊り合わない男女のはずが、二人は誰もが認めるパートナーになった。
悪どい寮長と、それを操る相談役。
契約によって結ばれた二人の関係は、しかし、いつまでも途絶えることがなかった。
「あなたはいったい、いつになったら願いを口にしてくれるんですか?」
潮風が吹き込むレストランのテラスで、ナイトレイブンカレッジを卒業した元寮長が尋ねた。
「うーん……、だって、わたしがなにかを願う前に、誰かさんが勝手に叶えてくれちゃうんだもん。」
そう答えた彼女の左薬指では、アクアマリンをあしらった銀色の指輪が輝いていた。
用務員の職を捨て、新たな“職”を手に入れた彼女は、今でもまだ、彼だけの相談役。
「しょうがないでしょう。愛する人の願いは、誰よりも早く叶えてしまいたいんですから。」
潮風で乱れた髪を梳き、丁寧に整えてくれた彼は、対価とばかりに彼女の唇を奪う。
触れるだけの唇が離れ、互いに淡く微笑み合った時、店の奥から呆れた声が投げ掛けられた。
「あのさぁ、もうすぐ開店時間なんだから、いつまでもイチャつかないでくんない?」
「ダメですよ、フロイド。ああやって充電しないと、アズールはすぐに蛸壷へ引きこもってしまいますから。」
住み込みの従業員二人が、何年も変わらぬ光景を見て、呆れ、笑う。
「本当にお前は余計な一言が多いな、ジェイド……! 開店前の貴重な夫婦のひと時を邪魔するな!」
そう文句を言いながら、レストランのオーナーである彼は、店の中へ足を運ぶ。
ここは、数年前に移転したモストロ・ラウンジ本店。
海沿いに建てられたレストランには、陸の人間、海の人魚、種族を問わず多くの客が集まってくる。
この店には、どんな願いも叶えてくれる優秀な魔法士と、彼らを纏める異世界人が住んでいる。
「さあ、ヒカルさん。忙しい一日が始まりますよ。」
差し出された手を、彼女は迷いなく取った。
いつかに残しておいた選択肢は、とっくの昔に捨て去って。
片恋を成就させた敏腕経営者と、いつまでも願いを叶えられない相談役のお話。
Fin