第1章 鬼の仕事
最低限の物しか置いていない部屋にノックの音が響き渡る。
コンコン・・・。
「鄙鬼、いないんですか?」
「いますよぉ~。勝手に入って下さい。」
そう返事すると、1秒もしない内に扉が開く。
入ってきたのは赤と黒の着物を着た男・・・否、鬼だった。
その鬼は、眉目秀麗という言葉が恐ろしく似合っていた。
「あれ?鬼灯様どうなされたんですか?」
鬼灯と呼ばれた鬼は、あからさまに溜息を吐き鄙鬼に、こう告げた。
「亡者が逃げました。」
「え・・・?」
「異界に繋がっている穴が放置されていましてね。それを見つけた亡者が、其処から逃げ出したようです。」
その話を聞いた鄙鬼は、ある事を思い出した。
”確か、異界に繋がってる穴を管理してたの、私の部下じゃね。っていう事は、・・・私の責任じゃね!??”
そう考えた鄙鬼は、顔を青く染め鬼灯に土下座した。
「申し訳御座いませんでした!!部下の世話もろくに出来なかった私の責任です!!!」
「・・・まぁいいでしょう。反省もしているようですし、今回はおおめに見ます。
そんな事より・・・、貴方に頼みがあるのですよ。」
「頼み、ですか?」
こっ酷く怒られると思っていた鄙鬼は、キョトンとした顔で、鬼灯を見上げた。
「ええ。異界に行って、逃げた亡者を捕まえて来て欲しいんです。・・・でもこれは、頼みと言うより、仕事に近いですけどね。頼まれてくれますか?」
「はい!喜んで!!・・・仕事、仕事、うふふ」
仕事と聞いた途端に、目をキラキラと輝かせる鄙鬼を見て鬼灯は、こっそりと溜息を吐いた。
「まったく・・・、その興味が私に向けばいいのに。」
「何か言いました?」
「いえ。何も言ってませんよ。・・・それより、異界に行くときは、連絡できる物を持って行って下さいね。」
「は~い。手紙でいいですか?」
それを聞いた鬼灯は、つり上がった目をさらに上げ、整った眉を真ん中にギュッと寄せた。
「・・・手紙、ですって?手紙が異界から此方まで届くのに何日かかると思ってるんですか。分かって言っているんですか?」
「・・・はい、すみません。」