第6章 呪われし美姫と 英明な従者
自分の娘が、見え透いた健気な虚勢を張るのを見て
ついにリア王妃は、我慢出来ずにオーロラに抱き着いた。
オーロラが我慢しているのにも関わらず、王妃は嗚咽混じりに涙を流した。
抱き合う2人を、ステファンが大きな腕で包み込む。
彼もオーロラと同じように懸命に涙を堪えているようだった。
フィリップも、彼女との別れを惜しんでいた。
いつも余裕のある大人な彼が、こんなにも思い詰めた顔をしているのをオーロラは初めて見た。
『フィリップ…』
名を呼ぶ婚約者を、堪らず彼は強く抱き締めた。
「…あの野郎…、俺にもどこに逃げるか教えないって言うんだぜ。
俺の事は信用してるけど、俺の家臣までは信用出来ない。どこから情報が漏れるか分からないからってよ」
そう言って、オーロラを抱き締める手にさらに力がこもる。
「でもまぁ…それくらい徹底してる方が、お前をキッチリ守ってくれるかもって。納得、することにした。
でもよ…、おかげで、お前に会いに行ってやる事も出来ねぇ…っ」
『フィリップ…、ありがとう。でも大丈夫。私、16歳になって絶対にここに帰ってくる。約束するわ』
「分かってる。待ってるから…。
帰って来なかったら、承知しねーからな」
フィリップとの別れが済んだ後。
改めて王は、オーロラに向き直って言う。
「お前に渡す物が2つある。 まずこれを…」
ステファンは、側にある棚から木箱を取り出した。
そしてそれを彼女に差し出す。
オーロラがその木箱を開けると、短剣があった。
その刀身は皮の鞘に収められており。柄には見事な細工が施されていた。
「それは銀製のダガーだ。常に身に付け、いざという時に身を守って欲しい」
実はこの短剣は、ステファンがリリアの体を貫いた剣の刀身を用いて作られた物だった。
マレウスが銀に滅法弱いと気付いての事ではなく、
悪しきものを退けた剣。両親はただの縁起物としてオーロラに持たせたかったに過ぎないのだ。
「…私達が次に贈るのは…お前の新しい名前だ」
これも、リドルの提案だった。
オーロラという名前を捨て、
新しい名で身を隠し、16歳になる瞬間まで自分達と暮らす。
これこそが、彼が導き出した策。
「オーロラ。
お前の新しい名は…」