第6章 呪われし美姫と 英明な従者
突如として吐かれた、あまりにもショッキングな呪いの言葉に
その場にいる全員がまさに茫然自失といった様子。
この混乱を招いた張本人、マレウスは
自分の望んだ通りの光景になっているであろうのに、その表情からは少しの満足感も感じられなかった。
彼が呪いの言葉を吐いてしばらくすると、その体から濛々と黒い煙が出現した。
そして瞬く間に、その黒い霧はオーロラの方へ移動する。
『っ!』
得体の知れないそれに、彼女は身構える。
その霧からオーロラを庇うように、フィリップが両手を広げて前に出た。
しかし霧はフィリップの体をいとも簡単に通り抜け、ついにオーロラの元へ届いてしまう…。
「———!!」
「っ!——!」
呪いを受けた瞬間、自分の名を叫ぶ幾人もの声を聞いた。
痛みはなかった。ただ、まるで走馬灯のように周りの景色がスローモーションになった。
自分に駆け寄る両親、床に崩れ落ちる自分を抱き止めるフィリップ。
それらが本当にゆっくり動いている。
なんだか眠くて眠くて仕方がない。
それに、胸の上に石でも乗っかっているのではないか?と錯覚するくらい呼吸がしづらい。
重くなった瞼をなんとか持ち上げると、ドラゴンに魔法攻撃を仕掛ける
リドルや妖精達が確認出来た。
オーロラは “やめて” と叫び出したかったが、声は出ない。
彼女は両の拳をギュッと握った。
どうしても、ドラゴンに危害を加えて欲しく無かったのだ。
何故か今、彼女の頭の中には
城襲撃の際に、ガーゴイルを壊された出来事がフラッシュバックしていた。
どうして今の。この絶対絶命のピンチに、そんな事を思い出してしまうのか彼女にも分からなかったが。
このドラゴンを失ってしまえば…あの時のように、大切な何かを失ってしまう。
そんな確信を抱いた。
しかし。そんな彼女はやがて、ゆっくりと意識を手放した。