第6章 呪われし美姫と 英明な従者
突如として理不尽にリリアの命を奪われかけた事で、彼は怒りを覚えた。
人間に歩み寄ろうとしてきた努力がことごとく裏切られた事で
彼の中に悲しみが募った。
結局は自分は、彼等とは分かり合えない特異な存在なのだと思い知られされ
彼は苦しみに苛まれた。
そして彼は…心底怯えていた。
冷徹冷酷な自分自身に。今から、自らが行う残虐非道な行いに。
しかし、こんな自分にしたのは…
お前達、人間だ。
これが、今の彼の心の中の全てだった。
その歪んだ黒いドロドロとした増悪で溢れた思いは
まるで廃油のようにマレウスの心を漆黒に汚してしまったのだ。
マレウスが口を開くと、それだけで辺りの空気が黒く染まりそうになる。
「ふふ…。そんなに怒らなくとも、長居するつもりはない。
僕は、お姫様に贈り物をしたかっただけなのでな」
全矢面に立たされたオーロラは、驚きで目を見張る。
「贈り物、だって?」
冗談だろう。とでも言いたげなリドル。その綺麗な眉がピクリと動く。
誰しもが息を飲み、未知の恐怖に身をすくませる中。
ドラゴンは天に向かって嘶いた。
すると、今まで青々と晴れ渡っていた空に真っ黒な雲が現れ。空を覆い隠し。
まるで夜のように真っ暗になる。やがて思わず耳を塞ぎたくなるような雷音が2.3度鳴り響いた。
そして。ついにマレウスが用意した贈り物の正体が明らかになる。
「…姫が16歳になる、その時までに
彼女はその指を 糸車のつむに突き刺して…。
そして死ぬ」