第6章 呪われし美姫と 英明な従者
マレウスは、数多の兵士に銃を向けられて。
多数の妖精や魔法使いに哨戒される中、
それでも悠然とホールの中心を陣取っていた。
大きな翼をバタつかせると、ガラガラと天井や壁が崩れてしまう。
まるで紅茶に沈めた角砂糖のように、いとも簡単に崩壊した。
マレウスが微動するその度に、緊張が現場に走る。
そんな異様な空気感の中、彼がついに口を開く。
「ずいぶん華やかな集まりだ。
招待されなくてがっかりだよ」
聞く者を、腹の底から怯えさせるような 唸るみたいな声。
この姿の時の声と、いつものマレウスの声とは、一線を画していた。
フィリップや国王、ハーツラビュルの3人は、前情報として
マレウスがドラゴンへと身を変えられるらしいという巷説を耳にしていた。
だから今ここにいるドラゴンの正体を理解していたが、
そもそもマレウスの存在を隠され、声もまともに聞いた事の無いオーロラには
それを知る事は不可能だった。
ただガーゴイルの件もあり、初めて会った気がしない。そう感じていた。
「君は招かれざる客だ。それは理解しているかい?」
リドルは怯む事なく、マレウスにマジカルペンを向けた。
万年筆に取り付けられた魔法石が反応する。
「やれやれ…せっかく素敵なパーティーだってのに。
無粋な事してくれるなよ」
トレイも、リドルに倣ってペンを構えた。
「本当です…。さっさとお引き取り願いましょうか」
デュースも2人と並んで、臨戦体制だ。
こうして3人の頼もしいナイトが、ドラゴンの前に立ちはだかった。
そんな彼等の背中を、見つめる事しか出来ないオーロラ。
守られる事しか出来ない不甲斐なさに苛まれながも、彼女は考えていた。
このドラゴンは、どうしてこの場に現れたのだろうか。
どうしてこんなに痛々しい目をしているのだろうか。と。
怒り、悲しみ、苦しみ、怯え、それらの色を孕んだその瞳は
たしかにオーロラを見て揺れていた。