第6章 呪われし美姫と 英明な従者
———その頃、茨の谷にあるマレウスの城では
リリアが主人の姿を探していた。
一時は大怪我を負ってしまった彼だったが
持ち前の特殊な体と、マレウスの献身的な介抱のかいもあって、順調に回復していた。
もう以前と体調は何ら遜色はない。
「おぬし、マレウスを見てはおらぬか?
さきほどから探し回っておるのだが、全くもって見つからんのじゃ」
彼は自分の1番近くにいる従者に声を掛ける。
「リリア様!若様なら、なにやら大切なご用事があるとの事で!
1時間ほど前に、おでかけになられました!!」
一際 声の大きな彼は、リリアにそう告げた。
「なんと…大切な、用事とな…」
リリアは、顎に手をやって考えた。
マレウスは子供ではない。自分に行く場所を告げずフラフラと出掛ける事も少なくない。
しかしリリアは、自分の胸にじわりじわりと広がる不安をたしかに感じた。
嫌な予感がするのだ。
特に最近のマレウスはリリアの目から見ても歪んでいた。
今の彼は、何をしたって不思議ではない危うさがあった。
「!そういうたら…、今日は…」
リリアは、考えた末にある事柄に行き当たった。
それを思い付いた瞬間に、彼は自分のコートを引っ掴んでいた。
そして足早に玄関へと向かう。
「リリア様もお出掛けですか!」
従者は駆け出したリリアの背中に言った。
それには答えないで、リリアは城を飛び出した。
彼の頭の中に最悪なケースが浮かぶ。
別にこの世に神様がいるなどとは信じていないリリアだったが、この時ばかりは天に願った。
どうか、今自分が考えている事態にだけは、陥っていませんように。
ただの、自分の杞憂で終わってくれますように、と。