第6章 呪われし美姫と 英明な従者
まさにそこは、地獄と化していた。
2階にあるホールの天井は大破し、皮肉なほど青い空が覗いていたし
崩れた壁は瓦礫と成り果て、煌びやかな室内の様相は
もはや微塵も感じられない。
恐怖に慄く人々は叫び、我先にと逃げ惑う。
そして、その阿鼻叫喚の中心にいる人物こそ。
ドラゴンへと身を変えたマレウスその人だった。
彼の鋭い瞳は、微動だにしないオーロラを見つめているようだった。
オーロラもまた、その突然姿を現したドラゴンから目を離せないでいた。
恐怖や驚きからではない。
彼女は、このドラゴンを知っていたから。
よく似ていたのだ。先日失ってしまった、あのガーゴイルに。
天に向いてそびえる2本の黒々としたツノも。
自身を余裕で包めるくらいに大きな両翼も。
まるで1枚1枚が盾のように身を守る鱗も。
強さの象徴として存在する爪も牙も。
自分が物心ついた時から共にあった、あのガーゴイルだ。
「オーロラ!」
そう叫んで駆け寄ってくるのは、両親。
そして彼女達を守るように取り囲んだのは、フィリップと
ハーツラビュルの3人だ。
「怪我はないか!?」
フィリップの問い掛けに、オーロラは答える。
しかし、視線はドラゴンから離せないまま。
『大丈夫…。フロイドが、助けてくれたの』
「フロイドが!?」
フィリップの頭は混乱した。
どうしてフロイドが彼女を助けるのか、分からなかったからだ。
オーロラの身に何か起こる事は、アズール達にとってメリットしかないはず。
それなのになぜ…。
そこまで考えて、フィリップは頭を振った。
今は
遠くの危機より目の前の危機だ。