第6章 呪われし美姫と 英明な従者
(あーークソ痛ぇ)
オーロラの前から素早く姿を消したフロイドは
渦中の場所から少し離れた中庭で、上着を脱ぎ捨てた。
同時に自身に突き刺さるガラス片は、彼の血と共にほとんど地面に落ちる。
(…なんでオレ、あいつ助けたわけ?
自分が怪我してまで。なんの意味があんの?
わけ分かんね…。なんだこれイライラすんなぁ)
彼は頭をガシガシと掻きむしった。
そして、やっと思い至る。
自分が彼女を助けた事が、アズールとジェイドに知られたら面倒だと。
おそらく殴られるどころでは済まないだろう。
「……ヤベ」
「何がやばい、のですか?」
もはや後ろを振り向かずとも分かる。
兄弟が、満面の笑顔を浮かべて激昂している姿が。
そうは言っても、ジェイドを無視するわけにはいかないので
フロイドはゆっくりと後ろを振り返る。
「…1つだけ、伺ってもいいですか?」
ジェイドが笑うと、自分と全く同じ造りの瞳が怪しく光った。
「貴方は、僕とアズールを裏切るつもりですか?」
「……そんなわけ、ねーじゃん」
「そうですよね。疑ってすみませんでした。
もしや貴方が、
なぜアズールが各国を統一しようとしているのか…
それを忘れてしまったのかと思いまして」
ジェイドはわざとらしく、
アズールへの忠誠心をフロイドに確認してみせた。
「…次、姫を助けようなどとしたら…
僕が貴方を許しませんからね」
フロイドには分かる。ジェイドがいま本気で怒っている事が。
丁寧な口調とは裏腹に、ドス黒いオーラが彼に纏わり付いているから。
「何はともあれ、事は大きく動きます。
僕は付き人として フィリップ様のお側を離れる事は叶わないでしょう。
貴方は、お姫様を見張っていて下さいね。
頼みましたよ」
「……はーーい」
フロイドは面倒そうに頭に手をやって、ジェイドに背を向けた。
彼の心は、確実に揺れていた。